「暇な人」がいちばんえらい
何か面白いことをするときに,「あの人に声をかけてみよう」と思えるような人はどんな人だろうか。今,この文を読んでいる人の頭には,特定の誰かが浮かんでいるだろうか。だとしたら,それはどんな人だろうか。
楽しいことをしたいのに,その楽しさを共有できる仲間の多くはあまりにも忙しすぎる。物理的・精神的な余白を持ったまま生活をしている人が本当にいない。今までフルタイムで働いた職場の全てが「これ以上何かイレギュラーな仕事が入ったら崩壊します」のような働き方をしている人の集まりだった。ただ,誰かが急にいなくなっても,なんだかんだで地球は回っている,という経験も何度もしたのだが。
黒鳥社のYoutubeチャンネルの動画,『中井きいこさんと鳥取・湯梨浜町松崎の汽水空港へ|黒鳥本屋探訪〈これから読む本が一番面白い〉第12回 お喋り編』の中で,汽水空港という素敵な空間を創ったモリテツヤさんは,「暇な人が一定数居ないとこういう場所って成り立たないんですよ」という。これに応える形で黒鳥社の若林さんは「出版社とかってそういう何やってるかよくわからないブラブラしている人がとにかくどれだけいるかみたいなのが勝負じゃん」と返す。出雲路本制作所の中井さんは,福井の鯖江では「暇な人が町で一番偉いんだみたいなことがよくいわれてて」というエピソードを紹介。店番や地域の祭り,田植えなどにフットワーク軽く参加することができるからだという。
Podcast「花束を添えましょう」の江川あゆみさん(早稲田大学助手)のインタビューでは,江川さんの軽やかな選択がそのとき必要とされている場所に呼ばれるきっかけとなったことについて,「ナイス・ブラブラ」という言葉が使われていた。何かを創り出すときそのことを心から楽しめる,そのための能力を持つ人を適材適所に送るためには,「ナイス・ブラブラ」状態が必要と考える。結局,どこかに属したり,何かのプロジェクトに参加したりするきっかけは突然やってきて,あれよあれよと決まることが多い。そういう時こそ,あらゆることがうまくいき,自分らしさと共に周囲に影響を及ぼす貢献ができたりする。たくさんの人にナイス・ブラブラして欲しいが,そのためのセーフティネットはどのように設ければ良いのだろうかというのは無視できない問題だろう。